🔸メンバーを大切に思うマネージャーへ

いったい、いつからだろう。

小さいころ、何かを見つけると一目散に走り出していた。遠くまで行くと不安になって振り返る。でも、お母ちゃんがちゃんと見てくれていたから、もっと思いきり走った。

動いているものが気になって、クワガタをわしづかみにしたら痛くて、次はそっとつかんだ。

怖いおじさんに会ったときは、急いで親の後ろに隠れて、ギュッと手を握った。

小学生のときは、めんこ遊びが大好きで、朝から晩まで他校の子たちと勝負して回った。

あの頃は、感じたことをそのまま表現して生きていた。毎日が、型にはまらない、新しい冒険だった。

学校に通うようになり、仕事を始めてからだろうか。たくさんのことを学んできた。

「感じたことをそのまま表現すると、失敗することもある」――そんなことまで学んでしまった気がする。だから、失敗しないように。迷惑をかけないように、一生懸命考えて、立ち回ってきた。

世間の価値観だって学んだ。「コンサルタントは優秀な職業」と聞いて、尊敬されるかなと思って転職してみたけど、自分には合わなかったし、ちっとも面白くなかった。

小さいころの自分が見ていたら、きっとこう言うだろう。
「おじさん、なにやってるの?」

いま、ぼくはクリエイティブ制作の仕事でマネジメントをしている。でも、どうも会社都合の“上から下へ”のマネジメントが苦手だ。マネジメントする方もされる方も、どこか苦しくなってしまう。

だから、自分なりのマネジメントを探してきた。そして今、チームメンバーとの関わりの中で、ぼくのマネジメントは大きく変わった。ちょっとだけ、チームの仲間を紹介したい。


Aさんは、遅刻が多い。
上司からは「あいつは社会人として問題だ! お前の管理責任はどうなってる!」と何度も叱られた。ぼくも何度も注意したけど、なかなか改善しなかった。気がつけば、お互いに険悪な雰囲気になり、疲弊していった。

でも、あるとき思った。何かが間違っている。
Aさんは“社会人”である前に、“お母さん”だ。ひとりでふたりの子どもを育てながら働いている。その大変さ、寝不足になる日々は、想像に難くない。

ぼくとAさんに必要なのは、「協力関係」だ。
なのに、お互いが疲弊するほど“遅刻をなくすこと”に必死になるなんて…それって本当に意味があるんだろうか?


Aさんは、会議で思いついたことをつい口に出してしまう。
「おしゃべりを止めろ! 時間のムダだ!」と、ぼくは上司から注意された。

でも、静まり返った会議の中で、Aさんのひと言が呼び水になって、場の空気が変わることもある。会話が広がる。ぼくはちゃんと見てるからわかる。実は、あれは組織力を引き出す“きっかけ”になっていた。

Aさんは今、新商品発表会のリーダーを務め、活躍している。


Bさんはシニア社員。
ある日、他チームのマネージャーがやってきて言った。
「おまえ、Bと仲いいんだろ? 引き取ってくれよ。あいつ、仕事しねーんだよ」

腹が立って、その場で「わかりました」と即答した。

Bさんに話を聞いてみると、過去に提案してもマネージャーに無視され続け、話すことすら嫌になっていたという。仕事はちゃんとしていたのだ。ただ、“報・連・相”がなかっただけだ。

今、Bさんはグローバル全体の環境対応業務を統括している。


そんなBさんは、とても好奇心旺盛。
ぼくが「画像生成AI、仕事に使ってみたいな~」と口にしたその日から、もう触って遊びはじめていた。

ある日、Bさんの周りにメンバーが集まっていた。のぞいてみると、美しい風景や女性の画像が画面に映っていた。

それを見た外国出身のCさんが、「私もやってみたい! Bさん、教えて!」とお願いし、レクチャーが始まった。

Cさんは夢中になり、土日も使って画像生成を繰り返し、ついに実装までつなげた。

「なんでAIに関心を持ったの?」と聞いてみた。
「日本語にまだ劣等感があって、どこか自信が持てなかったんです。でもAIなら、苦手な言語を補ってくれるし、画像生成までできれば、みんなの先に行ける気がして。」

Bさんの「好奇心」が、Cさんの「画像生成AIへの興味」につながり、Cさんの今後のキャリアを方向づける仕事へ昇華した事例です。

Cさんは全社のAI研究会に立候補し、AI活用をリードしている。


もしも――
「こうあるべき」「これがルール」といった思い込み「役割」や「評価基準」に縛られて、メンバーの固有な事情が考慮されなかったり個性や特長が“問題”として扱われたりして、メンバーの可能性が閉ざされてしまうとしたら、それは本当に残念なことだ。

真面目に、必死に役割を果たそうとしているマネージャーのみなさんに伝えたいことがあります。「マネージャーらしくあるべき」という制服をおもいきって脱いでみよう

もっと、自分自身で勝負していい。大切なのは、あなたが“本当に感じていること”だ。その“自分”を使って、役割をつくり、表現していこう。

“自分”を使った役割でメンバーと関わる機会は、わかり合うきっかけとなる。メンバーが大切にしていること、興味を感じていること、仕事への想い・・・新たな可能性が見えてくる。わかり合うことを通じて、メンバーも、あなたの存在に確かなチカラを感じるはずだ。

会社都合で立てられた目標だって、メンバーにとって魅力ある目標へと創りかえることだってできる。

魅力ある目標の達成に向かって、新たな可能性を発見していく日々のPDCAは、もうただの“仕事”じゃない。それは、未知を楽しむ“冒険”になる。

時間だ。

そろそろ、ぼくらの可能性を開く冒険に出かけよう。

準備は、もうすでに整っている。

必要なのは、素手のぼくらと、そばにいる仲間だ。